「あなたは…」

蛙男が去った後、沈黙が支配する玉座の間に、アスカの呟くようなかすれた声が響いた。

「本当に…魔王なのですね」

この声は、ライには向いていなかった。自らのいる場所を確認するように、己に向けた言葉でもあった。

「…」

ライはしばし、無言であった。

「…」

アスカも口をつむんだ。

そんな時間が、どれくらい過ぎただろうか。

ライはおもむろに、口を開いた。

「人神よ。お前の存在意義は何だ?」

「存在意義…?」

アスカは、ライの方に顔を向けた。

「そうだ」

ライは、誰もいない前方を睨み、

「大した力もないというのに、神を名乗る。それに、何の意味がある?」

「私は…」

アスカはライの問いかけに、素直に真っ直ぐに悩み…考えた。

そこから導いた言葉もまた、素直だった。

「わかりません」

「わからない?神と名乗っておきながらか?」

ライは、眉間に皺を寄せた。

「私は…」

アスカは、本当にわからなかった。何もかもが…。

だからこそ、彼女は訊いてしまった。

「神とは何ですか?」

「…」

ライは横目で、アスカを見た。

「私は、人々の象徴としか聞かされていません。あとは、血の繋がりが大切だと…」
「人間だな…」

ライは、鼻で笑った。

「下らん…」

そして、そばにいるアスカに、顔を向けた。

「下らない存在だ」

ライの目が、赤く光る。

城まで連れて来たが、もう用はなくなった。

(神とは…何だ?)

その質問をしたかったのは、己自身だからだ。

恐らく…この世界最強の力を持つ自分が、もっとも神と呼べるべき存在であろう。

しかし、神とは…一体何なのであろうか。

力だけが、すべてなのだろうか。

もし…全力の力を発揮したならば、この星を破壊することも可能であろう。

しかし、その瞬間…ライは住む場所を失う。

だとすれば…すべての生物を生かす…この惑星こそが、神ではないのか。