傭兵である褐色の男は、魔物を殺して…生計を立てていた。

今回のように、ティアナ1人で片付けられたら、おまんまの食い上げである。

店員は、ティアナの返事を待たずに、褐色の男の前に酒を出した。

「俺の失業祝いと…あんたとの出会いに、乾杯」

勝手に置いてあるティアナのグラスに乾杯すると、褐色の男は一気にグラスの中身を飲み干した。

「ふう〜」

息を吐くと、グラスをカウンターの上に置き、ティアナの横顔を見つめながら、

「俺の名は、グレイ・アンダーソン」

名前を告げた。

「…」

ティアナは前を向いたまま、何も言わない。

「フッ」

グレイは軽く肩をすくめると、カウンターの中にいる店員に顔を向け、

「おやじ!お会計だ」

「え…」

グレイの言葉に、ティアナは少し驚いた。

「お隣の食事代と…あとで、酒を一杯だしてやってくれ」

「……どういう意味?」

初めてグレイに顔を向けた瞬間、ティアナの唇に…グレイの人差し指が触れた。

「勘違いしないでくれ。一杯は、おごられるぜ」

グレイは笑い、グラスを指で突いた。

「これは、俺の失業分だ。そして、あとはお礼だ」

セラミック製の鎧の隙間から、財布を取り出し、

「今回の敵は、騎士団だった。まともにやりゃ〜あ」

後ろのテーブルに座る客達を見回し、

「俺の含め…ここにいるやつの殆どが、死んでいた」

最後にティアナを見た。

「ありがとうな」

グレイは金をカウンターに置くと、

「じゃあな…勇者殿」

ティアナの隣から離れた。

だけど、少し歩いてから振り返り、

「できれば、また…あんたを会いたいな。戦場以外でな」

手を振ると、店の外へ向った。


グレイが扉を締めたのと、同時に…ティアナの前に酒が置かれた。

ティアナのその酒の入ったグラスを見つめ、ため息をついた。

「あたしは未成年なのよ」