「それにしても…」

魔界の入口に陣取る、十字軍の前線基地を尻目に…ティアナは、その先にある町を目指していた。

もし基地が壊滅した場合、町もまた全滅することは、目に見えて明らかだった。

それでも、そこに町をつくったのは…前線基地からの兵士の需要を考えてだ。

魔界への最重要拠点でもある為に、兵士の数は多い。

「命懸けか…」

ティアナは町に入った。

「ふゅ〜」

町は一応、フェンスで囲まれていた。入口の門にもたれ、ウォッカの酒瓶をラッパしている男が、ティアナを見て口笛を吹いた。

魔界の入口にある町である。

そんなところに住む人々に、まともはいない。

緊張感を持ち…ギラギラと目を輝かしている者よりも、どこか怠惰で、退廃的な雰囲気を持っている者が多い。

町に少し入っただけで、痛い程にそれがわかった。

その雰囲気は、建物からも出ていた。

埃だらけの看板や、曇った窓…傷んだ外装から漂っていた。

(何かあったら…いつでも町を捨てれる為か)

ティアナはそう判断すると、水と食料を求めて、一番まともそうな店構えを探し、中に入った。

外の様子と違い、中は異様な活気に溢れていた。殺気に近い。

ティアナは、丸テーブルが並ぶフロアの中央を通り、奥にあるカウンターに向かった。

別に、長居する気はない。

燃料を補給したら、さっさと十字軍の本部に向かうつもりだった。

しかし、ティアナが店内に入った時から、ざわめきがわき起こっていた。

ティアナはカウンターに行くまでの間、視線は前に向けながらも、店内にいる客達をチェックしていた。

各々の武器を横に置き、着ている服もラフではなく、鎧を身に付けているものが多い。

明らかに、つい先程まで戦闘体勢であったことが伺えた。

ティアナは、カウンター内にいる店員に微笑むと、水と一番早く出せる料理を頼んだ。

「パンとハムになりますが…」

カウンターに並べていた食器類を、棚に移し替えていた店員が振り返った。

「それでいいわ」

ティアナは、笑顔で頷いた。