「あたしは…」

何も知らないといいかけて、アスカははっとした。

先程…涙を知った。


「む、無傷です!」

銃弾を放った隊員達は、唖然とした。

「じ、実弾ではなく!魔法弾を装填しろ!」

戸惑う隊員達に、司令官が命じた。

「や、やつには、雷撃は効かん!他の属性にしろ!」

ゲイルの言葉に、司令官は頷き、

「炎の魔弾を装填!」

「は!」

隊員達は、実弾を抜き、炎の式神でできた弾を込めた。

そんな混乱の中でも、アスカには男しかいないように思えていた。

玉座から身を乗りだし、

「な、涙を…知っています」
「その意味は?」

間髪を入れずに、訊いた男に、アスカは何も言えなかった。

「フッ…」

男は、笑った。

「う、撃って!」

炎の弾丸が発射され、全弾命中した。

「わかった」

男は頷くと、アスカから目を離した。

「俺が、教えてやろう」

再び赤く染まった男の目が、振り返り…隊員達に向けられた瞬間、彼らの頭が風船のように割れた。

血が飛び散り、首からは噴き出した。

黄金の部屋が、赤一色に変わった。

「これが死だ!これが、血だ!そして…」

男の目が、穴に逃げ込んだゲイルを映し出した。

「あれが、恐怖…絶望だ」

「か、かかれ!」

部屋に入れなかった隊員達が、今度は銃ではなく、真剣を抜いた。突きの形で、男に向かって突進した。


「ヒイィ!」

ゲイルはずっと悲鳴を上げながら、穴から飛び出すと、魔力を使い、地上に着地した。

恐怖から、ふわりと地面に足がついたのに…膝が折れ、王宮の入口の前で転けた。

「ヒイィ!ヒイィ!」

慌てて立ち上がり、王宮を囲む砂の上を渡る為に、橋を召喚しょうしとした。

しかし、橋はかからなかった。

その代わり…砂の中から、黒い闇が染みだしてきた。

「貴様の体…貰うぞ」

闇は、ゲイルの前に立つと…にやりと笑った。