「何!?」

ダダの蹴りでふっ飛んだフレアの前に、森の中から信じられないスピードで飛び出してきた黒い影が現れた。

「魔物…いや、人間なのか?」

ダダを睨む影は、黒髪を風に靡かせた十歳くらいの男の子だった。

「餓鬼か…。驚かせやがって」

ダダは、一瞬感じた魔力に動けなくなっていたが、男の子の姿を見て、安堵のため息をついた。

「しかし…人間のガキの癖に…魔法を使えるのか」

ダダはにやりと笑った。

一瞬感じた魔力も、男の子からはまったく感じない。

気のせいだろう。

ダダはそう思い、緊張を解いた。


それが、間違いだった。

命懸けの戦いに於いて、一瞬でも感じたものを見た目で否定した。

それは、魔神の1人であるという奢りだったかもしれない。

男の子は、ダダを睨みつけながら、両手を握り締めるとクロスした。

「いけない!」

フレアが止めようとしたが、時はすでに遅かった。

「よくも、お母様を!」

男の子の拳から、左右三本づつの爪が飛び出してきた。

そして、男の子がその爪を振るうと、

周囲にいたドラゴンナイト達の体に亀裂が走り…スライドするとともに、燃え上がった。


「ば、馬鹿な…」

ダダの体にも、亀裂が走っていた。

「この爪は…ネーナ様のファイヤクロウ…」

そして、左右にスライドしていくダダは、じっと男の子に装備された爪を見ていた。

「女神専用の武器を…なぜ…」

最後まで言葉を発することができないまま…ダダは燃え尽きた。


「お母様!」

振り返り、笑顔を見せた男の子に、フレアは驚愕していた。


(いつのまに…こんな強さを)

つい数ヶ月前までは、赤ん坊だった男の子が、こんなにも大きく…こんなにも強く成長している。

(やはり…この子は、特別…)

フレアは男の子に近寄ると、ぎゅっと抱き締めた。

「お母様?」

「無茶はしないでね…コウヤ」

フレアはぎゅっと抱き締めながら、改めて誓った。

だからこそ、守らなければならないと。