「人間…?」

また首を傾げる神官。

「そうじゃ…」

アートウッドは頷き、

「一気に全滅させるよりも、じわじわとゆっくり味わせた方が…人の恐怖は増す」

迫ってくる恐怖。

今まで使えていたものが、使えなくなる。

そのことに関する対処法もなく、防ぐことができないとわかっていたら…人はただ、怯えるしかない。


「打つ手は、ないのでございますか?」

神官は、外の民衆のことを考え、ぶるっと身を震わせた。

「そ、そう言えば!」

今まで口を閉ざしていたもう1人の神官が、何を思い出した。

「つい最近!聖霊達の力を使わなくても、魔力を使える方法があると!学会に、研究を発表した者がいましたが…」

「そんな発表があったのか!」

ぱっと明るくなる神官。

「確か…名前は…」

首を捻るもう1人の神官。

「フン」

そんな神官達の会話に、鼻を鳴らした後、アートウッドは口を開いた。

「ティアナ・アートウッド…。わしの孫だ」

「え!」
「え!」

驚きの声を上げる神官達。

「じゃあがな…。あんなものは、机上の空論だ!」

アートウッドは、声を荒げた。

「た、確か…お孫さんはまだ…お若いはずでは?」

「17…いや、もうすぐ18になるか」

アートウッドは顎に手を当て、考え込んだ。

「ティアナ・アートウッド…。あの才女か」

神官は、納得した。


ティアナ・アートウッドは八歳までに、大学を卒業しただけではなく…博士号を取得した。

だが…それだけならば、単なる天才である。

彼女が凄かったのは、そこからである。

末は、元老院のメンバーに確実になれると、将来を約束されていた身でありながら、彼女はここを飛び出したのだ。

その理由は、簡単だった。

頭を鍛えるのは、どこでもできる。

だけど、体を鍛えることは…ここではできない。

若干七歳の少女が、ペンを剣に持ち変えて、単身で野に出たのだ。

ほぼ…家出に近かった。