「中島……君?あれ?」

雨のスクリーンを破って、姿を見せたのは…理香子ではなかった。

「五月雨さん…」

夏希の姿を見て、中島は緊張を解き、

「どうして、ここに?」

「あたしんち…公園の向こうなの。だから、ここを抜けた方が近道なんだ」

「そ、そうなんだ」

「中島君こそ、こんな所で…雨宿り?」

夏希は、びしょびしょになっている中島の様子を見て、

「なかなか止まないと思うよ。よかったら、駅まで入る?送るよ」

「ありがとう。でも、もうすぐ相原さんが来るから…」

少し視線を外した中島の動きを、夏希は照れからと思い、

「そうか!理香子が来るんだ!じゃあ、悪いわね」

夏希はにやけると、中島に頭を下げた。

「2人とも、雨に気を付けてね」

「ありがとう」

「じゃあね」

手を振って、雨のスクリーンの向こうに歩きだした夏希の姿は、中島からはすぐに見えなくなった。

「まったく…。こんな離れた場所じゃなくて、学校のそばで待ち合わせたらいいのに」

夏希は、雨でぬかるんだ公園内を歩きながら、ため息をついた。

「確かに、2人の仲は…学園の七不思議の一つになってるけどさ」

傘をくるくる回しながら足元を注意深く見て、水溜まりを避けて歩く夏希は、ふと…前から視線を感じ、顔を上げた。

「九鬼?」

公園の入口に、黒い戦闘服を着た女が立っていた。

「どうして…変身してるの?また…でた…」

夏希の言葉は、最後まで言えなかった。

一瞬で間合いを縮め、目の前に現れた乙女ダークの拳が、夏希の鳩尾に突き刺さっていたからだ。

「命拾いしたな」

乙女ダークは笑い、

「雑魚に構ってる暇がなかって」

拳を抜いた時には、夏希の後ろを歩いていた。

「く、九鬼…?」

前に崩れ落ちた夏希は、水溜まりに全身を濡らした。

気を失い、地面に落とした鞄の中で、携帯電話が鳴っていたが…出ることはできなかった。

そして、強い雨にさらされて…鞄が変色していった。