「お、遅れちゃう!」

あたしは急いで、待ち合わせ場所に向かって走っていた。

勿論、待っているのは…中島だ。

結局、九鬼に相談することはできなかった。

でも、それでいいと思った。

あたしの気持ちを、ただ素直に不器用でもいいから、伝えたらいい。

きっと中島なら、わかってくれる。

学校から少し離れた公園が、待ち合わせ場所。走ったら、5分くらいだ。

「あ、雨?」

走っているあたしのおでこに、雨が当たった。

「急がなきゃ!」

鞄に折り畳み傘が入ってるから、慌てることはない。

少しスピードを上げながら、あたしは含み笑いを浮かべていた。

(あいつのことだから…傘なんて持っていない)

ということは、あたしの折り畳み傘の中に入ることになる。

それはつまり…相合い傘だ。

(きゃ!)

あたしは、心の中で身悶えた。

鬱陶しいはずの雨さえも、幸せに感じる。

そんな気持ちは、数分後に消えてしまうなんて…思ってもみなかった。

幸せさえ…思い出せなくなる。

そんな運命が待っていることを。

雨は突然、強くなり…あたしの行く手を遮り出した。

足を止め、鞄の中から…傘を取り出した。

「急がなきゃ…あいつ、びしょびしょになってるんじゃ…」

あたしはまた、走り出した。

「あの公園…雨宿りする場所…あったかな?」

遠くが見えなくなる程の土砂降りに、変わった。

今思えば…行く手を阻むこの雨は、運命の警告だったのかもしれない。

これ以上行くなという警鐘。

だけど、幸せだったあたしを、それくらいで止まることなんできるはずがなかった。

いや…何があっても、あたしは絶対に、中島のもとに向った。

そこに、彼が待っているなら…。