「囲め!」

「逃がすな!」

森林を、地上と空中から飛び回る魔物の群れ。

その数は、数えることが不可能であった。

大きくなった浩也の戦闘能力を重く見たリンネが、捜索部隊を強化したのだ。



「―ったく、これ程の大部隊を、赤ん坊を捕まえる為だけに投入するとは…前代未聞だぞ」

森が見渡せる山の頂上で、腕を組んで、魔物達を見下ろしている魔神。

彼の名は、ムゲ。

百八の魔神の1人である。

天空の騎士団に属する彼は、漆黒の翼でまるでコートのように、身を包んでいた。

切れ長の目に、額から角らしきものが、飛び出ていた。


「まあ…そう言うな」

ムゲの後ろにも、魔神がもう1人いた。

赤い体毛に覆われ、昆虫のような複眼の目をした魔神。彼の名は、ファイ。

炎の騎士団に属していた。

「お前と私が組むなど、女神達がご健在の頃は考えられないこと。それ故…今回の件は、特殊かつ…重要ということであろう」


先日の浩也の戦いのことは、百八の魔神といえども、詳しくはふせられていた。

「フン」

ムゲは鼻を鳴らした。

そんなムゲに、ファイは目を細めると、

「それに、お前にとってはいいことだろ?」

にやりと笑い、

「肩身の狭かった天空の騎士団に属するお前が、手柄をたてれば…こんな辺境の…人間もほとんどいない土地から、解放されるかもしれないぞ!ははは!」

大笑いするファイを、ムゲは横目で睨んだ。


「貴様は、我が部隊を愚弄するつもりか!」

ムゲの鋭い眼光に、ファイは笑みを止め、

「すまぬ。別に、お前達を愚弄するつもりはない。ただ…我らが女神がいなくなり、裏切り者が残っていようが!我々炎の騎士団には、リンネ様がいらっしゃる!魔王ライに、もっともお目をかけて頂いていらっしゃるリンネ様がな!」

自慢気にいうファイを、ムゲはせせら笑った。

「何をいうか。その妹は、裏切り者として、逃げ回っておるではないか!」

ムゲは、森林に再び目をやった。