学校というある意味…異空間から出ると、九鬼は下宿に向けて歩いていた。

今日は、珍しく生徒会の仕事も早く終わった。

化け物が出たという連絡もない。

だから、九鬼は1人で帰っていたのだ。

里奈達とは仲間ではあるが、わざわざ待ち合わせて帰るような仲でもなかった。

共に戦う同士ではあるが、馴れ合うことはしない。


九鬼は歩きながら、ポケットの中に手を突っ込んで、乙女ケースを確認した。

(神と戦える力…)

哲也が言った神とは、恐らく綾子のこと。

しかし、九鬼にはどうしても…綾子が化け物を操っているとは思えなかったのだ。

(あの…優しい赤星先生が)

だから、どうしても確かめたかった。綾子に会い、真実を。

しかし、ここ数日、綾子の行方を探してが…足取りは掴めなかった。

わかったことといえば、ほとんど家に、帰っていないということだけだった。


「うん?」

突然…額に当たった感覚に、九鬼は立ち止まり、空を見上げた。

「雨か…」

空一面を覆う薄い灰色が、もう辺りを濡らすことを警告していた。

「まだ…いけるな」

九鬼は、下宿までの距離を考え、本降りになるまでには着くと予想した。

だけど、少し早足になる九鬼を見下ろす影があった。

気配を感じさせないように距離を取り、八階建てのビルの屋上に立つ影は、タキシードを着ていた。

「時は来たり」

タキシードの男は、両手を広げ、

「幾多の年月を得て…ついに来る復活の時!」

そのまま月を見上げた。

「我が妹!月の女神イオナ!我が姉!虚無の女神…ムジカよ!貴様達により、引き裂かれた我が体を!取り戻す時が来たのだ!」

タキシードの男は、町の隙間を歩いていく九鬼の背中を睨み付けた。

「そして、クギ!忌々しい人間の分際で、神を冒涜する愚か者が!!」


その時、ビルの下から吹き上がって来る風が、タキシードの男の上着をまくり上げた。