「え!」

驚いた九鬼は逸らした顔を、もとに戻した。

潤んだ瞳で、九鬼を見つめるあたし。

ほんの数秒だけど、あたし達の視線が絡まった。


「はっ!」

あたしは、我に返った。

何を見つめ合っているのか。

(あたしには、中島がいるのに!)

中島の名前が出て、あたしは九鬼に相談しょうとしていたことを思い出した。

「じょ、冗談よ!アハハハ…あたしには、中島がいるんだから!」

「そ、そうよね。ハハハ…」

九鬼もまた顔を逸らすと、笑って見せた。

「…」

慌てて九鬼の横に行くと、屋上を囲む金網に手をかけ、あたしは景色に目をやった。

少し深呼吸した後、

「あたしはね…。真弓という親友が、そばにいて…中島という好きな人を守れたら…それでいいの」

金網から手を離すと、一度背伸びをした。

「理香子…」

「それにさ」

あたしは、九鬼に体を向けた。

「真弓が男だったら、いっしょに戦えないし…。もし、戦ってたら…心配するよ。怪我でもしないかと」

あたしの言葉に、九鬼は苦笑し、

「女友達だったら、怪我していいと?」

軽くあたしを睨んだ。

「そ、そういう訳じゃないの!」

焦るあたしに、九鬼は声を出して大笑いしてから、

「わかってるわ」

あたしの顔を見た。

「意地悪」



そんな会話をしていたら、チャイムが校内に鳴り響いた。

(あっ!肝心なことを話していない)

あたしは頭を抱えた。

でも、時間がない。


「ま、真弓!また後でね!」

仕方なく、屋上から走って出ていくあたしを、九鬼は見送った。

「まだ…間に合うのに」

九鬼は微笑みながら、歩き出した。

出入口に向かいながら、何気なくポケットに押し込んだ乙女ケースを掴んで、もう一度確認した。

「!」

その瞬間、九鬼の足が止まった。

乙女ケースの色が、変わっていた。

黒だったはずが、あの記憶にしかない…銀色に輝いていたのだ。

しかし、九鬼が握り締めていると…やがて光はくすみ、元の黒へと戻った。