「そうだね…」

完全に消滅した乙女ケースを見ていると、九鬼には残念な気持ちよりも、感謝の思いしか浮かばなかった。

幾多の戦いで、自分を救い…守ってくれた力に。

塵を見つめる九鬼に、あたしはどうしていいかわからずに、

「も、もう1つ…あるから…」

いいよねと言いかけて、止めた。言い訳は見苦しい。

「ごめんなさい」

頭を下げたあたしに、九鬼は首を横に振り、

「いいのよ。多分…寿命だったのよ」

頭を下げているあたしの肩に、手を触れた。

「だから…頭を上げて!」

「ま、真弓…」

少し涙が滲んでしまったあたしの顔を見て、九鬼は苦笑した。

「あなたのせいじゃないわ」

九鬼は残った乙女ケースを、あたしに差しだし、

「だから、触っても大丈夫よ」

「え」

「確認してごらんよ。今のが、特別だっただけ」

九鬼の笑顔に、あたしは恐る恐る手を伸ばした。

「大丈夫」

九鬼は、さっきのことで…あたしのトラウマにならないうちに、確かめさせたかったのだ。

「うん」

あたしは指先だけを、乙女ケースにつけた。

「大丈夫」

だけど、九鬼の言うように、さっきようにはならなかった。

「ほらね」

九鬼はあたしに優しい笑顔を向けると、乙女ケースを一度握り締めた後、スカートのポケットの中に押し込んだ。

「ありがとう」

あたしが思わず、お礼を言うと、

「何も悪いことしていないのに…謝ることはないわ」

九鬼はまた微笑みをくれた。

そんな笑顔の九鬼を、あたしはぼおっと見つめてしまった。

あまりにも、長い時間見つめるものだから、九鬼は顔を赤らめて、あたしから顔を逸らした。

そんな九鬼に、あたしは微笑むと、とんでもないことを口にしてしまった。


「真弓が…男だったら、よかったのに」