次の日。

大した怪我もせずに終えることのできた九鬼は…一人屋上に来ていた。

二つの乙女ケースを握り締めながら、学園の周りの景色をただ…見つめていた。


九鬼を探していたあたしは、屋上に上げった瞬間、寂しげな九鬼の背中を見つけた。

「どうしたの?こんなところで…1人でさ」

突然、後ろから声をかけられた為なのか、珍しく驚いた九鬼が慌てて振り返った。

「り、理香子…」

別に驚かすつもりは、なかったんだけど…目を丸くしている九鬼に、逆にあたしが少し驚いてしまった。

「ど、どうして…ここに?」

「あんたを探してたのよ。ちょっと相談があってさ」

「相談?」

「うん」

頷いたあたしの目に、九鬼が持つ2つの乙女ケースが映った。

「あんた…2つも乙女ケースを持ってるの!」

驚きの声を上げるあたしに、九鬼はフッと笑い、

「1つは、兜博士のものよ。もう1つは…あたしのものかな?」

乙女ケース達を見つめた。

「あのマッドキャベツの!」

あたしは、2つの黒い乙女ケースを交互に見た。同じ黒のように見えて、濃さが違った。

「昨日…壊れたのは、どっちなの?」

あたしの言葉に、九鬼は濃くない方の乙女ケースを指で示した。

「こっちよ」

「わかりづらいわね」

思わずあたしは、手を出してしまった。

そして、あたしの指が触れた瞬間…、

「え!」
「何!?」

あたし達は、絶句した。

乙女ケースが砕けたのだ。

塵になり…屋上のコンリートの地面に落ちた。

「乙女ケースが…砕けた!?」

今まで、この乙女ケースを盾にして、相手の攻撃を防いだこともあった。 それほど強固だった乙女ケースが、砕けたのだ。

「…」

九鬼にはまるで…役目を終えて、塵に戻ったように思えた。

太古の昔より、人の手にずっとあった…最古の乙女ケースは今、役目を終えたのだ。

「こ、これって!量産型のやつでしょ!さらに、旧タイプの!ガ、ガタが来てたのかな?」

何とか誤魔化そうとするが、無理に決まっている。

あたしの額から、冷や汗が流れた。