「何?」

茶店のカウンターに頬杖をついていた綾子は、サングラスの男の報告を聞いていた。

床に跪き、連れていった実行部隊が全滅した経緯を話す男に、綾子は鼻を鳴らした。

「月の力?」

「はい。それは、強大で」

と言った男のサングラスが、真ん中から割れ、床に落ちた。

「そんな雑魚に、あたしの駒が失われたと?」

「も、申し訳ご、ごさいません」

綾子の見下ろす赤い瞳に、男の体が恐怖で震え出す。

「それに、彼も連れて来ることができなかった。それは、どうしてだ?」

綾子は訊いた。

「そ、それは…」

「彼がいれば、月の女神はこちらに手を出せなくなる……と教えたはずだが?」

「も、申し訳ご…」

同じ言葉を繰り返す男の心は、綾子のプレッシャーで限界をこえた。

顔の筋肉がひきつり、笑ったような感じになった。


次の瞬間、男の頭が膨らみ…破裂した。

「笑うな!」

綾子は、ただの肉片になった男を睨み付け、

「その表情が、一番嫌いだ」

コーヒーカップに手を伸ばした。

「テラ…」

カウンター内にいたマスターが声をかけ、冷めたコーヒーを新しいものに変えた。

綾子は…新しいカップを手に取ると、一口すすり、

「嫌な昔を思い出す。無邪気で、無知で…愚かだった頃を」

虚空を睨んだ。