(赤星先生…)

(あたしが思う…社会的な人間の姿が、それです)

綾子は、九鬼を指差し、

(だから、笑顔のあなたは…もう立派な人間なのです。だから…)

綾子は満面の笑顔を見せ、

(いつまでも、今のあなたでいて下さいね)



血塗られた自分が、人の社会で生きていける。

そう許されたような気がした。

だから、笑顔でいようと心掛けていた。

例え…まだ、ぎこちなくても。


そんなことを教えてくれた綾子が、化け物達の女神。

信じられなかった。

(だけど…こいつらは、人間から…変幻した)

ならば、綾子は…そんな相手からも、笑顔を引き出そうとしているのかもしれない。

どんな辛いことがあっても、笑顔でいたいと言った綾子が、女神になったからといって…考えが変わるはずがない。

九鬼はそう…確信していた。

なぜならば、闇の中にいた自分に笑顔を教えたのは、綾子だからだ。


(闇夜の刃であるあたしが、まだ…笑顔を忘れないのは、赤星先生の教えのおかげ…)


九鬼は足を止め、上空の月を見上げた。

「赤星先生…。あなたに、会いたい」

そう呟いた九鬼の耳に、綾子の最後の会話がよみがえった。

実習が終えた日。

校門まで見送った九鬼に、綾子が告げた。

学校から出るとすぐに、振り返った綾子は、

(もう先生は、なしよ。あたしもまだまだだから…)

九鬼に笑いかけ、

(赤星さん。もしくは…綾子姉さん…って!姉さんはいらないわ!綾子さんで、よろしく)

(はい!わかりました…赤星先生)

(じゃない!)

綾子が、九鬼を指差した。

(ご、ごめんなさい。あ、綾子…さん)

(それでよし!)

と言った後、互いに笑い合った。




九鬼は苦笑すると、さっきの言葉を言い直した。


「あなたに会いたい…綾子さん」