そんな九鬼に、話しかけ…人としての過ごし方を教えたのが、綾子だった。

養護教諭の資格を取る為に、九鬼が編入した中学にやってきたのだ。

たった二週間の触れあいだったが、クラスにも学校にも馴染めなかった九鬼が、生徒会長を務められるまでになったのは、綾子のお陰だった。



「皮肉なものだな…。君を闇の中から、救った存在が…今度は、闇を率いている」

「そ、それは!」

思わず足を止め、振り返った九鬼に、哲也はぴしゃりと言い放った。

「彼女の本意ではないと言いたいのかね?だけどね!重要なのは、結果だよ。その過程よりね」

「…」

「彼女は、女神の力に目覚め…人にあざなす存在になった。彼女は、人を滅ぼすつもりだよ」

「そんなことはあり得ない!」

九鬼は、体を哲也に向け、

「仮に、綾子さんが…人類を滅ぼそうとしたところで!たった1人で、できるはずがない!」

「彼女が、人間ならね」

哲也は、乙女ケースを握り締めた。

「神とはね!そういう存在のことを言うんだよ」

震える手が、哲也が味わった恐怖を再現していた。

「その神と!戦う為に、いるんだよ!乙女シルバーの力が!!」

絶叫する哲也は、後ろから聞こえて来た笑い声に気付き、慌てて口をふさいだ。


「いやあ〜!もう理香子がいれば〜!あたしらは、最強だよ」

今まで、東校舎の屋上でくっちゃべっていた里奈達が、正門までの道に姿を見せた。

「そうそう!」

夏希の言葉に、頷いた里奈は、正門近くにいる九鬼と哲也に気付いた。

「うん?あれは…九鬼と…兄貴?」

九鬼はこちらを向いていたが、哲也は背中しか見えない。

「チッ」

哲也は舌打ちすると、もう一度九鬼を見つめ、

「戦いが激しくなれば、月影の力を得た者でも…どうなるか、わからない」