少し身を乗り出した絵里の瞳が、近い。

カップの向こうから、こちらをじっと見て、明菜の言葉を待つ絵里から、カップを置くと、視線を逸らしてしまった。

「知らない…。もう五年は、会ってないから」



少し間を開けてから、絵里は体を元の位置に戻すと、

「やっぱり…そうなんだ」

残念そうに肩を落とし、再びストローで氷をかき混ぜた。

「高校も途中で来なくなったから…。先生も何も言わなかったし…どうしたんだろうって、ずっと気になっていたんだ」

「そ、そう…なんだ…」

赤星浩一が、異世界に旅立ったことは…誰も知らない。

そして、最初のきっかけになったのが…。

「そう言えば…高校の時、あんたも…二度程、長期に休んだことがあったわね」

絵里はまたテーブルに頬杖をつくと、明菜を真っ直ぐに見据えた。

「そうだったかな?わ、忘れちゃった」

惚けてみせたが、白々しかった。

「…」

絵里は、無言になった。

明菜は慌ててカップを取り、液体を流し込んだ。

どんな味かもわからない。

我ながら…何て下手な演技なのだろうかと、嫌になったが、仕方がない。押しきるしかないのだ。

明菜はカップを置くと、深呼吸した。

高校の時の二度の長期休みは、すべて…異世界に行っていた。

最初は精神だけだから、覚えていない。 脱け殻の体は、家にずっとあり…原因不明の奇病とされた。

次の失踪事件は、覚えていた。その時は、精神も肉体も異世界にいたからだ。

それに、ほば同時期…5人の生徒も、校内から消えていた。

彼らもまた…異世界に呼ばれたのだ。

結局、異世界から戻ってこれたのは…明菜1人。

他の生徒達が、どうなったのかは知らない。


そして、異世界に迷い込んだ二度とも…赤星浩一に助けられたのだ。

二度目の時、浩一は…自らの体ごと異世界に向かい、明菜を助けた後…こちらの世界に戻っては来なかった。

少なくとも、五年間は…。

そう…明菜はつい最近、浩一を見たのだ。

スクランブル交差点で…高校生のままの浩一と。