「女神テラよ」

山根も外に出てきた。

「何だ?」

綾子は少し…苛立っていた。

「は!」

山根は綾子のそばまで来ると跪き、

「月の女神につきまして、その者から、先程面白い事実を聞きました」

「何だ?」

綾子の片眉が上がった。

「月の女神が愛する者に関してです」

にんまりと笑った山根の口からでた話に、綾子はフンと鼻を鳴らした。

「故に…」

山根の笑みは止まらない。

「月の女神は、我々には逆らえません」


「下らん…」

綾子は、山根から視線を外すと、

「その件は、お前と…こいつに任せよう」

綾子は、加奈子の頭をさらに踏みつけると、

「ところで、お前に聞きたいことがある。お前の学校の生徒会長を知っているか」

「生徒…会長…」

その言葉を聞いた瞬間、加奈子の全身に力が入った。 踏みつけている足が、頭で押し戻された。

「真弓のことか!」

首を動かし、血走った目を見せた加奈子の反応に、綾子は少し驚き、

「知り合いか」

やがて笑うと、もう一度地面に顔を押し返した。

「それは、好都合だ」

「め、女神!」

地面にめり込んでいく加奈子の頭を見て、山根が慌てて立ち上がった。

「…」

綾子が足をよけると、加奈子はピクリとも動かなくなった。

「き、貴重な戦力が!」

加奈子に駆け寄る山根の横を通り過ぎ、綾子は店へと戻る。

「そんな雑魚どもは、どうでもいい!」

綾子は店内を睨み、

「我々を見捨てた癖に、おめおめと戻ってきた!赤星浩一を殺せ!」

絶叫した。

「は!」

そんな綾子に、跪く者達。

マスターも頭を下げながら、別のことを考えていた。


(人を愛した女神…。同級生に嫉妬する女…。自らの兄を殺そうとする女神)

マスターは顔をゆっくり上げながら、

(なんと…人間臭いことか)

心の中で、これから起こることを思い…憂いた。