そんな加奈子の心を見透かした綾子が扉を開け、外に出た瞬間…頭上から、包丁が雨のように降ってきた。

「乙女包丁…乱れ桜」

呟くように言った加奈子は、勝利を確信した。

目を見開き、歓喜の声を上げようとした加奈子の顔は…そのまま、凍りついた。

「どうした…始めないのか?」

加奈子の方に振り返った綾子は、フッと笑った。


降り注いだ包丁は、すべて一瞬で消滅したのだ。

「クッ!」

加奈子は歯を食いしばると、綾子に向かって襲いかかった。

「それでいい」

綾子の目が赤く輝いた。

「なめるな!」

加奈子のパンチを、綾子は左手の人差し指で受け止めた。

それから、右手で加奈子の腕を掴み、片手で投げると、 茶店の前の道に、叩きつけた。

アスファルトが割れ、地面が裂けただけではなく、加奈子の体を包んでいた乙女スーツも粉々になった。

「ほお〜」

綾子は関心した。

「五体バラバラにするつもりだったが…大した服だな」

そう言うと、加奈子の腕を離した。

「うがああ」

声にならない声を上げ、ひとしきり身を捩った後、加奈子は立ち上がった。

もう変身は解けていたが、別の変身が始まった。

加奈子そのものの姿が、変わる。

黒い息を吐くと、巨大化し…ドラゴンの姿になる。

「それがどうした?」

綾子は、黒いドラゴンに近付いていく。

「あたしが知りたいのは、月の力だ。それじゃない!」

綾子の瞳が、さらに輝いた。



そして、数秒後…店の前に、地にひれ伏した加奈子の頭を踏みつける綾子がいた。

「月の力…こんなものか?」

がっかりとしたような綾子の言葉に、店から出てきたマスターが口を開いた。

「恐れながら申し上げます。真の月影の力は、こんなものではありません。それに、真の人間は戦う覚悟が違います。死してもなお、立ち向かう…」

「お前の好きな大和魂というやつか?」

綾子は、マスターを見た。

「今の人間にあるとは、思えないがな」

と言い笑った後、綾子の脳裏に、微笑む少女の顔がよみがえった。