「…」

フレアは無言で、周囲を見つめると、ゆっくりと構えた。

数百体のドラゴンナイト達が、襲いかかってくる。


「待て!」

どこからか、よく通る低い声がして、ドラゴンナイト達の動きを止めた。

フレアだけが、声がした方に目を向けた。

「魔王軍直属の部隊が束になって、1人の女にかかるなど…人間達の笑いものになるわ」

ドラゴンナイト達が空中で道を開けると、1人の魔神が歩くようにフレアに近づいてきた。

「久しいな。フレア!」

3つの目を持ち、炎でできた甲冑を身に纏った魔神。

「…」

魔神は、フレアを知っているようだが…フレアは無言だ。

「蛍火のフレアと言われたお前が、ここまでの業火を纏うとはな!」

魔神の手に、灼熱の剣が握られた。

「しかし、その業火も!百八の魔神の1人ダダの前では、ただの種火に過ぎぬわ!」

ダダの持つ剣が天に向けて、炎を噴き上げた。

「…」

フレアは静かに、構え直した。

「フン!」

ダダは鼻を鳴らし、

「貴様の炎は、我には通じんわ!」

上段に構えた剣を、フレアの脳天向けて、振りおろした。

「あたしは…種火…。それでいい…」

フレアは呟くと、体を横にすることで、剣をギリギリかわした。

「何!?」

目を見張るダダの顎に、スラッと長いフレアの足の先がヒットした。

「この程度で!」

今度は横凪ぎに振るった剣が、フレアの横腹を強打した。


「ク!」

思わず顔をしかめたフレアは、自分のことよりも何かを気にしていた。

「駄目…。来ては駄目」

フレアの目は、眼下に広げる森に向いていた。

「あたしは、大丈夫だから…」


「何をごちゃごちゃと、話しているか!」

ダダの蹴りが、フレアの顔面を蹴った。

「中級の魔物でありながら、リンネ様の妹というだけで、親衛隊に加えて貰ったお前などに!」

「駄目!」

「我が負けるか!」

ダダの苛立ちに反応したかのように、森の中から…何かが飛び出してきた。