「僕の気持ち…」

しばし…乙女ケースを握り締めながら、浩也はその黒い表面を見つめていた。

やがて、ぎゅっと力を込めると、浩也は…乙女ケースを学生服の内ポケットに押し込んだ。

(僕は…)

歩きだそうと、顔を上げた時…少し離れた場所に、誰かが立っているのを認識した。

いつからいたのかは、わからなかった。

それなのに、妙な気持ちにはならなかった。

逆に離れて立っていることが、不思議に感じられた。

いつも、そばにいてくれる。

それが、当たり前だったような…そんな感覚を持っていた。

離れて立つ少女に、少し悲しげな表情をしてしまった僕に…少女は、優しく微笑んだ。

その微笑みを…どうしてか、僕はらしくないと思った。

これ以上ない…とても、素敵な笑顔なのに。

「らしくないな」

自然と口から出た僕の言葉に、離れて立つ少女は目を丸くした。

そして、少しはにかんだように目を伏せると、

「そうか…」

呟くように言った。

なぜか…僕はその少女の呟きが懐かしく…嬉しくて、歩き出した足が、とても軽くなった。

近づく僕と少女。

すれ違う瞬間、少女は口を開いた。

「一緒にいこうか?」

「大丈夫だよ。XXXミア」

自然とこたえてから…今度は、僕が心の中で驚いた。

振り返ることはしないで、僕は足だけ止めた。

(彼女は…確か…ミア。阿藤美亜さん)

心の中で、その少女の名を確かめた。

正しいはずなのに、それの方が違和感を感じた。

思わず走り出した僕の背中を、少女は横顔だけで見送っている。

そんな映像が浮かんだ。