しばし海を見つめた後、カイオウはおもむろに話し出した。

「今回、貴殿を呼んだのは他でもない。我が主…ライ様と」

「赤星浩一君のこと…」

ジャスティンは、カイオウに真剣な顔を向け、

「ですかね?」

優しく微笑んだ。

「有無」

カイオウは頷き、岬の端…海へと落ちる崖に近づいた。

下を覗くと、剥き出しの岩場を波が、絶え間なく打ち続けていた。

「海の底に封印された魔王は、我ら騎士団長が力を合わせれば、お助けることができるであろう。しかし!」

カイオウは波を睨んだ。

すると、すべての波は押し返され、激しくうねる海は静かな浅瀬になった。

「復活された魔王は必ず、人間を滅ぼす!」

さらにカイオウが睨むと、視線の先の海が避け、海底に道ができた。

その様子を静かに見つめていたジャスティンは、ため息とともにカイオウにきいた。

「それだけではないでしょ?魔王の封印が解かれれば、赤星君も復活するはずですが?」

「復活してどうする?」

カイオウは、ジャスティンに目を向けた。

海を裂く眼光を浴びても、ジャスティンはびくともしない。

気を後ろに流しているのだ。

ジャスティンの後ろにある木々が、激しく曲がっていた。

「彼は自らの肉体を燃やして、魔王を封印している」

カイオウの言葉に、ジャスティンは眉を寄せた。

「つまり…復活しても、肉体がないと?」

カイオウは頷き、

「魂だけの存在になるだろう」

「!」

ジャスティンは驚いた。

だが、心に引っ掛かることがあった。

顎に手を当て、自分の中に生まれた引っ掛かりを探す。

「そして、もう一つの問題…いや、心配事がある」

じっと自分を見つめるカイオウの視線を見て、ジャスティンははっとした。

「アルテミアか」

「有無」

カイオウは、深く頷いた。

「今や、魔王に次ぐ力をお持ちになりながらも、赤星浩一殿を守れなかった悲しみにより、修羅の道を歩もうとされておる。アルテミア様の動向こそが、今もっとも危険なことの一つじゃ」