「…」

取り戻した乙女ケースを見つめた後、九鬼はスカートのポケットに入れると、ゆっくりと歩き出した。

目的地は、情報倶楽部だった。

中西との攻防で、高坂の身をていした動きがなければ、乙女ケースを取り戻せなかったかもしれなかった。

そして、その時…高坂は中西に蹴られていたから、怪我をしたかもしれなかった。

お礼と見舞いを兼ねて、九鬼は高坂達に会いに行こうとしていた。


(それに…)

自分が、乙女ブラックであることもバレてしまった。

その件に関しても、説明しなければならなかった。

それともう1つ…理事長から受け取った乙女ケースの在処も気になっていた。

九鬼が、戦いの途中で変身を解いた為に、激闘の中で失われていた。

もしかしたら、高坂達が回収したかもしれない。

そうだとしたら、返して貰わないといけなかった。

理事長の形見であるし、一般生徒が持っていたら、何があるかわからなかった。

(月影の力を持つ者は…ひかれ合い、戦う運命にある)

リオ達が参加した月影バトルは、アルテミアに殆どの乙女ケースを奪われたことで終わった。

しかし、大量の乙女ソルジャーの襲撃を見て、九鬼はまだ終わっていないのではないかと思っていた。

例え…量産タイプの一般人向けの乙女ケースとはいえ…何が降り掛かるかわからない。

だからこそ、彼らをこれ以上巻き込むわけにはいかなかった。

もし、彼らが持っているならば回収し、生徒会室で、保管…もしくは、九鬼の乙女ケースと融合させようと決めていた。


「ふう」

一呼吸すると、九鬼はグラウンドの手前で立ち止まった。

とは言え、情報倶楽部の部室の場所は、トップシークレットであった。

もしもの時を想定して、生徒会長には教える決まりがあったが、現職の会長で自ら訪れた者はいない。

それに、グラウンドを通れば目立つ。

「確か…体育館の裏のどこかに…隠し入口があったはずだ」

部員達は遠回りになるが、それを使って出入りしていた。

一番近いマンホールの入口は、殆ど使われることがなかった。

九鬼は、体育館の裏に向かうことにした。