「し、しかし…」

高坂の体の弱さを知っている緑は、それで止めようと、そばに駆け寄った。

高坂はドアノブを掴みながら、

「服部の帰りが遅すぎる。ちょっと様子を見てくるよ」

緑に心配させまいと微笑んだ。

「あいつなら、滅多なことでは…」
「服部の生命反応がありません」

緑の言葉の途中で、冷静な舞の報告が、高坂の笑顔を凍りつかせた。

「何!?」

情報倶楽部の部員には、もしもの時に備えて…発信装置を心臓部分につけていた。

それは、弾除けにもなるし、 心臓の鼓動を感知し、部室のパソコンに知らせる機能があった。

「何があった!」

高坂は顔を真っ青にしながら、パソコンの前に座った舞に駆け寄った。

「殺されたのか?」

「多分…。だけど、発信機自体の反応もありません」

キーホードを操作すると画面に、服部の反応が消えるまでの鼓動の変化が、グラフにして表示された。

服部の性格を表すように、落ち着いて規則正しい鼓動が消える間際…マックスに高まり、一瞬で消えた。

「恐らく…一撃」

あくまでも冷静な舞。


「消えた場所は、どこだ?」

「別館の一階です」


別館とは、理事室のある南館よりもさらに奥にある校舎で、普段は滅多に一般生徒が入ることはなかった。

何故ならば、そこが哲也達の本拠地だったからだ。

今は、主を失い…少し前までの勢いはなくなっていた。

哲也の下にいた生徒の大半が、一般校舎に戻ったからだ。

「わかった!」

高坂は部室を飛び出した。

特別校舎は、情報倶楽部の部室と真逆の位置にあった。

「先輩!」

緑は止めようと手を伸ばしたが、届かなかった。

「大丈夫。輝も向かわせるから」

緑は、キーホードに指を走らせた。

そんな舞を見て、緑は冷たい視線を浴びせた。

「冷静ね。仲間が死んだかもしれないのに」

「そうでもないわ」

舞は画面から、目を離さず、

「ただ…死を見すぎただけよ」