「いつのまに!」

カレンが屋上から飛び降りようとしている間に、浩也は下にいた。

その動きは、ここにいる者全員が見ることができなかった。

「貴様!また、俺と真弓の邪魔を!」

殴りかかろうとする中西の動きが、止まった。

九鬼に笑顔を見せていた浩也が、振り返ったからだ。

「君が、人間なら…手は出さない」

その言葉は、中西の脳にだけ響いた。

「!?」

香坂は、動きが止まった中西に眉を寄せた。

香坂の位置では…浩也の瞳が一瞬、赤く光ったのを見ることはできなかった。

しばし、見つめ合う浩也と中西。

「く!」

中西は顔をしかめると、背を向けた。

ゆっくりと歩き出した中西は、校舎の角を曲がる寸前に、横顔を向けた。

「真弓!お前は諦めない!」

と言うと、姿を消した。


「真弓!」

ブラックカードを使い、屋上から飛び降りたカレンは、九鬼に駆け寄った。

「今、治してやるぞ」

ブラックカードを九鬼の腕に当てるカレンと見て、香坂は目を見開いた。

「ブラックカード!?」

それは、防衛軍の支配者である安定者だけが持っていた伝説のカード。

安定者の存在も伝説として、一般には知らされていないのに…ブラックカードが目の前にあった。

カードシステムの崩壊後…ほとんだ機能しなくなった一般のカードと違い、未だに魔力を使えるブラックカードを見て、香坂は絶句していた。

「ブラックカードを持つ生徒…それに」

香坂は、浩也を見た。

「何者だ?」