「は!」

九鬼は怯むことなく、前に出る。

回し蹴りが、中西の残像を蹴る。

「お前は!」

目の前に現れた中西の拳を、懐に飛び込んで避けた。

九鬼の顔と中西の顔が、接近する。

「俺には敵わない!」

残った左腕で、九鬼の腹を狙う。

それを読んだ九鬼は、後方にジャンプした。

「なぜ!認めない!」

中西も前方に飛びながら、速射砲のように無数の拳を突きだした。



「遊んでやがる」

校舎の屋上から、九鬼と中西の戦いを見ていた緑が呟いた。

「オラオラオラオラ!」

九鬼が交わせるスピードで、拳を繰り出す中西。

しかし、両側は逃げれないように完全にガードしており…九鬼が抜け出すことはできない。

中西の腕の中で、無数の拳を避ける九鬼。

まるで、拳の籠に囚われているように見えた。


「…」

その様子を、高坂は無言で見つめていた。


(このままでは…)

九鬼は拳を避けながら、せせら笑っている中西の顔を見つめた。

(やられる)

中西の顔から、眼鏡を外す隙を伺っていたが…その前に、自分の体力がもたない。

(仕方がない!)

九鬼は覚悟を決めた。


「は!」

気合いを入れると、両腕を曲げ、左右に突きだした。

拳の残像が消え、中西の突きだした両腕を押さえつける格好になった。

高速で繰り出される腕を止めた為に、九鬼の両腕の制服が破れ、肉の焼ける匂いがした。

「うりゃあ!」

腕を止めると、同時に九鬼は足を蹴り上げた。

勿論、目的は…中西にかかっている眼鏡である。

九鬼の爪先が、中西の眼鏡を蹴り上げたように見えた。

しかし、それは残像だった。

「危ない」

中西は笑った。

「しかし…終わりだな」

九鬼の両腕から、血が流れていた。

今の攻撃の代償として、九鬼の腕は傷ついてしまった。