その頃、西校舎裏を目指し、早足になっていた九鬼の前に、眼鏡をかけた美亜が現れた。

「阿藤さん?」

九鬼は、足を止めた。

美亜は優しく、微笑んだ。

「九鬼様」

九鬼の前では、以前のままである美亜は…突然、走り出した。

「大変何ですう!」

九鬼の胸の中に飛び込んだ美亜は、震えだした。


「どうしたの?」

美亜の様子に、ただ事ではないものを感じとり、九鬼は美亜の両肩を掴むと、胸から離し、顔を覗き込んだ。

美亜は、今にも泣きそうな顔になり、

「理事長の近くを通ったら…廊下に、大量の砂があって…そ、それでり、理事長室を覗いたら……いやあ!」

少しパニックになる美亜に、九鬼はあくまでも、優しい口調できいた。

「理事長に何かあったの?」

「あ、あ、あ」

言葉にならない美亜に、九鬼は聞き方を変えた。

「理事長に何かあったのなら…頷いて」

九鬼の言葉に、美亜は頷いた。

「わかった。報せてくれてありがとう」

九鬼は微笑みながら、美亜の肩から手を離した。

「大丈夫?」

美亜にきくと、コクリと頷いた。

九鬼も頷くと、

「じゃあ…行ってみるわね。ありがとう」

もう一度お礼を言うと、九鬼は美亜から離れ、走り出した。

校則を守っている場合ではない。

遠ざかっていく九鬼の背中を見送りながら、美亜は呟いた。

「このまま…普通にやられて貰っては困る」

九鬼の背中が完全に見えなくなると、美亜は眼鏡を取った。

「他が為の戦士よ。お前には、人というものの戦う姿を、あいつに見せて貰わなければならない」

美亜は、九鬼が去った方に背を向けた。

「そして…敵わぬ力に、絶望する姿をさらして貰わないといけない」

ゆっくりと歩きだした。

「すべてを、あいつに見せる為に」