「うん?」

鼻腔を刺激する血の臭いを敏感に感じ取った九鬼は、屋上から階段をかけ降りた。

しかし、九鬼が来た時には、廊下には血の臭いは消えていた。

勿論、女子生徒の死体もない。

「?」

首を捻った九鬼は注意深く、廊下を歩きながら、血痕を探した。

しかし、まったく血の痕がない。

「馬鹿な」

唖然とした九鬼の右斜め後ろの窓に、刹那が映っていた。

九鬼を見て、ガラスの中でふっと笑った刹那の足元には、血溜まりに倒れている女子生徒の死体があった。

窓に映る廊下と、九鬼がいる廊下は違っていた。

まるで、世界が、空間が…違うかのように。

刹那は、探索する九鬼の背中を一瞥すると、窓に映る廊下を逆の方向に歩き出した。


「!?」

九鬼は、振り向いた。

誰かがいたような気がしたからだ。

窓の向こうに見えるのは、花壇と…学校を囲む塀だけだ。

九鬼は外を凝視したが、何も見つめることはできなかった。


「会長!」

窓の外を見つめていると、廊下の奥から九鬼を呼ぶ声がした。

振り向くと、美和子が近づいてきた。

「いかがなさいましたか?」

訝しげに首を傾げる美和子に、九鬼はフッと笑うと、

「何でもないわ」

歩き出した。

「会長!今日は、各部に分配する予算編成について…」

美和子も慌てて、もと来た道を戻る。

生徒会室は、この奥にある。


(おかしい)

と思いながらも、九鬼は生徒会を目指した。





「…」

九鬼が去った後、どこからか…1人の少女が現れた。

少女は、惨劇があったはずの廊下を見つめた後、窓ガラスに触れた。

「成る程…」

にやりと笑うと、

「まだ…面白いことがありそうね」

牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた。

「ほよ!」

すると、背が縮んだ。

「こ、ここは…」

きょろきょろと周りを見回した後、

「学校?」

首をおもいっきり、横に傾げた。