一方…屋上では、カレンと緑が対峙していた。

いや、正確には…もう終わっていた。

緑の手にあった木刀は、コンクリートの床に転がり…緑は、その場で崩れ落ちた。

「あたしが…瞬殺」

腫れ上がった手の甲を見つめ、緑は絶句していた。

手が痺れている為、しばらく木刀を握れない。

「この学園に、あたし以上の剣の達人がいたなんて…」

項垂れる緑に、カレンが突っ込んだ。

「剣使ってないし」

その言葉に、さらに落ち込む緑に、カレンは頭をかいた。

(このあたしが…学生如きの剣術に不覚を取ってどうする)


「あり得ない」

まだ現実を認めたくない緑の様子に、カレンが落ち込んできた。

(そんなに、あたしは…大したことなく見えるのか?)

ため息をついたカレンに、緑はさらに肩を落とすと、

「単なる山本さんに負けるなんて…そんなありふれた名字に!」


「は?」

カレンは、顔をしかめた。

「そうだ!」

突然、緑は立ち上がると、カレンを指差し、

「日本地区でも、ありふれた名字の人間に、あたしが負けるはずがない!」

「どんな理屈だ?それよりも、全国の山本さんに謝れ!」

「そうか!そうなんだな!」

緑の目が光る。

「というか!お前の名字は、なんだよ!」

「あたしの名字は、中小路!だけど、そんなことはいい!あなた!」

カレンを指差す指に、力が込もる。

「山本さんではないわね!」

「!」

カレンは心の中で、ギクッとした。

確かに、山本は育ての親の名字である。

カレンの姓は、アートウッド。

かつては、優れた身体能力と頭脳を兼ね備え、最高の一族と言われた名家である。

しかし、今は…もう存在しない。

「図星でしょ!」

鋭い緑の視線に、カレンは肩をすくめて見せた。

「くだらない」

カレンは、緑に背を向けた。

「あたしは、山本の姓にも誇りを持っている」

そう言うと横を向き、カレンは声をかけた。

「帰るぞ。浩也!」