絶望するユウリに、アイリも何もできない。

体の向きを変え、2人に近づくリンネ。

ユウリとアイリは覚悟を決め、再び跪き…頭を下げた。

リンネの掃いているヒールの先だけが、2人の視界に入った。

目を瞑ることもない。

なぜならば…二人は他の魔物と違い、リンネによって造られたからだ。

生奪権は、リンネにあった。

リンネはクスッと笑うと、二人に言った。

「あの程度の者で、心配しなくていいのよ」

リンネの言葉の続きを、二人は想像した。

(あの程度の者で心配される程、あたしは弱いのか?)

怒りの形相で、消滅されると。

しかし、結果は違った。


「ありがとう」

リンネはそう言うと、向きを変え…歩き出した。

「な!」

絶句する二人を残し去っていくリンネの背中を、思わず顔を上げたユウリとアイリは見送った。

「あり得ない…」

最強の魔神の一人であるリンネから、ありがとうの言葉が出るなど信じられなかった。

しばらく、そのままも格好で、リンネを見送った後…ユウリは立ち上がり、呟く様に言った。

「恐ろしい…」

今までのリンネは、あらゆるものを燃やし尽くす業火そのものだった。

だから、恐ろしかったが…わかり易くもあった。

しかし、変化してきた。

それは、フレアの裏切りと死が引き金になったことは間違いない。

それを始まりにして、人間と接するようになって、少しづつ変化があったことは…ユウリとアイリもわかっていた。

それがついに、別人と思わすような言葉を発するようになった。

リンネの変化は、完全なる魔物であり人とは違い、人を理解できないユウリとアイリには、恐怖でしかなかった。

人間は知らない。

魔物がある意味…人に恐怖を感じていることを。