「今のが、闇の女神か?」

最初から歩いていた女の言葉に、増えた2人が跪いた。

「そうでございます」

「しかし…今のあの女に、闇の女神という言葉を使うのは、適切ではございません。あやつは、闇の力を失っております故に」

女の前に跪くのは、ユウリとアイリ。

彼女達が臣下の礼をとるのは、この世でただひとり…炎の騎士団長リンネである。

2人は、アルテミアによってダメージを受けた体を癒す為に、炎の化身であるリンネの中にいたのであった。


「確かに…あの子から、闇の波動や魔力を感じなかった」

首を傾げるリンネに、ユウリが進言した。

「恐れながら申し上げます。あのような者…リンネ様のお心を惑わす資格もございません」

「ご命令とあらば…」

アイリも口を開いた。

「すぐにでも、排除致します」

2人の言葉に、リンネはクスッと笑った。

「ほっておきなさい。構うことはないわ」

リンネは、跪く2人の横を通り過ぎた。

「しかし…」

ユウリは何か言おうとしたが、言葉を止めた。

それを、リンネは見過ごさなかった。

「何かしら?ユウリ」


「はっ!」

慌てて体の向きを変えると 、言おうとした言葉を続けた。

「あやつがもし…闇の力を受け入れたならば…少しは、障害になるかもしれません」

「いいではないか」

リンネは、笑った。

「え」

2人は顔を上げた。

「その方が、退屈しのぎになるわ」

リンネの嬉しそうな顔に驚き、ユウリは少し腰を浮かせ、

「この後!もし!赤の王が、復活した場合…我々とあやつらとの戦いが始まります。そのようなことになる前に、少しの危険も排除された方がよろしいかと……!?」

少し興奮してしまったユウリの目に、優しく微笑むリンネの顔が映った。

次の瞬間、ユウリは覚悟した。

自らが滅せられると。

炎の騎士団長リンネに、笑顔はない。

その微笑みは、怒りよりも恐ろしいものだった。