閉めた後も、扉にもたれて、開かないようにしていた少女は、ずっと目をつぶっていた。

別に、九鬼に罪がある訳ではない。

だけど…冷たくしてしまう。

なぜならば…。

(マイスウィートエンジェル!)

中西の顔が浮かぶ。

確かに、あいつは…どこか変わっていた。

だけど、放送室を乗っ取ったりするような人間ではなかった。

恋が、人間を変えたのだろうか。

(それに…)

変身した中西の姿を、混乱する廊下で…少女は見ていた。

(知らなかった)

中西が、乙女ブラックであったことを。

幼なじみであり、大抵のことはわかっているつもりだったのに…。

落ち込んで、泣きそうになっていると、部室の扉が揺れた。

「開かないな。どうなってるんだ」

開けるようとしたが、少女が扉を押さえている為に開かない。

「おい!誰かいるんだろ!」

今度は、扉を叩き始めた。

部室の電気がついており、廊下からもその様子が見えた。

「す、すいません!」

少女は慌てて、扉を開けた。

叩いている人物の声で、誰か分かったからだ。

「何かあったのか?」

扉が開くと、目の前に…軽音部部長、浅倉美沙がいた。

「ち、ちょっと…不審者が…」

少女は、浅倉から目を外し、呟くように言った。

「不審者?」

浅倉は眉を寄せると、部室の中に入った。

「確かに、魔物などが現れているが…」

浅倉は、部室の奥に置かれたギターケースに目を向け、

「不審者といえば、あいつしか思いつかんわ!」

顔をしかめた。

「な、中西は!」

突然、少女が声をあらげ、

「不審者ではありません!少し変わっているけど…」

顔を伏せた。

「と思ってるのは、愛川…お前だけだよ」

浅倉は学生鞄を、部室に置かれた年代物の木の机に投げ置いた。

「それに、百…いや、千歩譲って…少しではない!大いに変わっているからな!」

「…」

浅倉の言葉に言い返さないが、少しふくれている愛川を見て、浅倉は肩をすくめた。

「やれやれ…」