「一体…何が起こっている?」

校舎に入った高坂は、襲撃があったとはいえ…雰囲気が変わった校舎内に、唖然とした。

空気が違う。

それは…魔物のテリトリーにあやまって入った時の感覚に似ていた。

左右に伸びる廊下を交互に見ていると、高坂は目を見開き、正面を見た。

「どうしました?」

追い付いた女生徒がきいた。

校舎を突き抜ける目の前の道を真っ直ぐにいくと、渡り廊下を通り、隣の校舎に入ることになる。

前を見る高坂の目に、新任の教師と思われる人物とすれ違う女生徒の姿が飛び込んできた。

その女生徒が一瞬…教師に向けたであろう殺気が、高坂の動きを止めたのだ。

まるで、剣で刺されて…即死したと思った程だった。勿論、心臓が一瞬だけ止まった。

あまりにも、一瞬だった為に、後から来た三人には感知できなかった。

「どうかなさったのか?」

髪の毛を真上に束ねた男が、高坂に尋ねた。

「何でもないよ。服部…ありがとう」

高坂は口ではそう言いながらも、緊張を高めていた。

殺気を放った女生徒が、渡り廊下からこちらの校舎に入って来たからだ。

「うん?」

「何!?」

先程奇声を発していた輝を除く…緑と服部は、近付いてくる女生徒の異様さに気づいた。

自然体で歩いているのに、隙がないのだ。

それにある程度…実戦の経験がある二人は、目の前にいる相手の力量がわかり、戦った場合を自然とシミュレーションしてしまう癖があった。

近付いてくる女生徒を見た瞬間…塵と化している自分達の姿が映った。

肉片一つ残らない。

(あり得へんやろ!ドラゴンを見た時も…腕くらいは残ってたでえ!)

愕然とする服部と違い、木刀を構えようとする緑の腕を、前から高坂が握り締めた。

(やめろ!)

無言だが、握り締める手がそう語っていた。

「く!」

顔をしかめる緑。

「うん?」

状況を理解できない輝以外の三人に、緊張が走った。