「君が、乙女ブラックだと思っていたのだがな」

黒縁眼鏡の男は、まだ浩也の腕の中にいる九鬼に笑いかけた。

「高坂先輩!」

驚きの声をあげる九鬼に一礼すると、高坂は三人に命じた。

「緑!輝!服部!相手は、学校を破壊した!こちらに大義あり!駆逐しろ」

「了解!」

「がるうう!」

「まかせんしゃい!」

三人は、塀に穴が空き…瓦礫に埋まったところから、出て来ない乙女ブラックに向かって走り出した。

しかし、九鬼と浩也だけは塀を見ていない。

横目で、真横を睨んだ。

2人の目線に気付き、高坂は叫んだ。

「後ろだ!」

「え?」

三人が壁の前で足を止め、振り返えろうとした時には、もう…乙女ブラックは浩也達の横にいた。

「邪魔が入った…。また今度な」

中西は眼鏡を外すと、そのまま怪鳥に破壊された校舎内に戻っていった。


「何という速さだ」

高坂は、去っていく中西の背中を見つめた後、目だけを動かし…浩也と九鬼を見た。

(さらに驚くべきは…彼女らだ。2人はその動きを見れただけでなく…予測していた)

驚愕していた高坂は、そんな自分を逆に見つめている浩也の瞳に気づいた。

(な、何だ!)

透き通り…濁りのない瞳なのに、その底を見ることはできない。まるで、合わせ鏡を覗き込むと、見える…永遠につながる風景を覗いているように、感じていた。

(こんな瞳を持つ…人間がいるのか?)

答えを探そうと、もっと奥を覗く為に、体の向きを変えた高坂に、

「停学がとけたのですか?」

浩也に抱かれている九鬼が、きいてきた。

「あ、ああ〜!」

現実に戻された高坂は、ばつが悪そうに頭をかき、

「今日な!やっととけたよ。長らく留守にして、心配かけたな」

「いえ…。先輩方がいない方が、心配事が減って…生徒会も平穏無事に過ごせましたわ」

「手厳しいな」

冗談に笑う高坂の目に、学生服を血だらけにした九鬼の姿が目に飛び込んできた。