「上手くやれたじゃないか」

屋上へつながる階段を降りて、廊下を歩いていた刹那に、誰かが横合いから声をかけた。

刹那は足を止めると、声がした方を見た。

廊下の窓に、自分が映っているだけだ。

いや、その映っている自分が話かけていたのだ。

「本当は殺してやりたい程…憎い相手なのにな!」

「…」

刹那は前を向くと、無表情になり歩き出した。

「おい!おい!無視かよ」

廊下のガラスに映る刹那は、歩く刹那を見つめながらついてくる。

「けけけ!」

突然、ガラスに映る刹那が笑い出した。

「そうだよな!お前はいつも逃げて来た!嫌なことからな!だから、お前は!あいつと違って、自分の闇を克服できなかったのさ!」

刹那は足を止め、ガラスに映る自分を睨んだ。

「!?」

ガラスに映る刹那も、刹那を睨んでおり…その醜い形相が重なる。

思わず、後ずさる刹那。

「どうして…驚く?」

ガラスに映る刹那が、にやりと笑った。

「これは、お前の顔だよ!醜い顔も!醜い心も!すべてお前だよ!」

「い、いや…」

思わず顔を背けた刹那に向かって、ガラスに映る刹那が叫んだ。

「どうして認めない!あんたがやったことだよ!生徒会長を辞めたことも!闇に負けたこともな!」

「いや!」

刹那は耳をふさいだ。

「どうして、嫌がる!その代わり…手に入れただろ?健康な足を!」

刹那は首を振る。

「健康な手を!健康な心臓を!健康な〜」

言葉を矢継ぎ早に吐き出すもう1人の自分に、刹那はパニックになる。

「望んだはずだ!生きたいと!他者を喰らっても生きたいと!」

ガラスの刹那が絶叫する。


「そうよ!本当は、何も抑えることはないのよ!何も責めることはないのよ!他者から搾取する!それこそが、人間なのだから!」


苦しんでいた刹那の震えが止まる。

いや、止まったのではない。

耳を押さえていた両腕が、廊下に落ちたのだ。