(あり得ない!どうしてだ)

乙女ソルジャーは、女にしかなれない。

男が変身する場合は、哲也のように女性の体になるしかない。

それなのに…中西は、普通に変身した。

(どうしてだ)

乙女ケースを奪われたことよりも、九鬼はそのことに驚いていた。





「何を馬鹿なことを!」

グラウンドのそばにかけつけたカレンは、目の前の茶番に顔をしかめた。



「どうして…何だろう。彼は違う。どうして、わからないんだろ?」

中庭にある噴水の向こうから、中西と九鬼の様子を見つめていた浩也は首を捻った。

戦い方…物腰が、一度見ただけであるが、明らかに九鬼の時と違っていた。

九鬼の乙女ブラックは流れるようなしなやかさがあったが、中西の場合は力で押し切った感じがした。



「それが、わかるのは…一握りの人間だけです」

浩也は突然、後ろから声をかけられて、少し驚きながら振り返った。

そこには、微笑む少女がいた。

「人の殆どが…今、あなたが思うように....思慮深く、強い訳ではありません」

少女は微笑みながら、浩也に近付いた。

「?」

浩也は少女を知らなかったが、なぜか…無視することができなかった。

自然と話を聞いてしまう。

「あなたは…そんな人を愚かと思いますか?」

探るような少女の瞳に、吸い込まれそうになりながらも、浩也はこたえた。

「僕も…昔は弱かったから…この世界に来た当時は……!?」

そこまで言って、浩也は絶句した。

(この世界に来た当時!?)

自分で口にして、意味がわからなかった。

自分に驚いている浩也の様子に、少女は嬉しそうに笑った。


「浩也!」

鳴り止まない生徒の歓声の中、中庭を横切ったカレンが2人に近づいてきた。

そのことに気付いた少女は、浩也から離れた。

「また会いましょう。赤星君。あたしの名は、美亜....阿藤美亜」

美亜は、カレンに背を向けると、中庭の置くに消えていった。