「それをあたしに!」

もう体裁など気にしては、いられない。

自分は避けれるが、次の瞬間…中西や、校舎にいる生徒が襲われる。

そう思った九鬼が、中西に手を伸ばした瞬間、 中西も手を伸ばした。

いや、伸ばしたのではない。

突きだしたのだ。

「装着!」

「何!?」

乙女ケースが開き、黒い光が…中西を包んだ。

次の瞬間、

「トォー!」

ジャンプした中西が、九鬼に襲いかかるサンドスネークの頭を蹴り上げた。


「乙女ブラック!」

校舎から、歓声が上がった。

「!」

驚く九鬼の後ろに着地した中西は、乙女スーツに身を包まれていた。

「いくぜ」

中西は人差し指で、黒い眼鏡を突き上げると、くの字に折れ曲がったサンドスネークに向かって、再びジャンプした。

「月影キック!」

回転し、かかと落としの体勢になった中西の足が輝き、サンドスネークの顎にヒットすると、まるで包丁で二枚おろしにするかの如く、サンドスネークの体を真っ二つに切り裂いた。

「フッ…」

中西がグラウンドに着地し、眼鏡を外したタイミングと同時に、二つに裂けたサンドスネークが、グラウンドに倒れた。

砂埃が舞う中、生徒の興奮した歓声がわき起こった。

学園を揺らす程の歓声の中、ゆっくりと九鬼に近付いた中西はすれ違いざま、こう言った。

「すまないなあ〜。もう返せないよ」

「何!」

「フッ」

中西は九鬼の前に立つと、こちらを見ている生徒に向かって、叫んだ。

「俺が、乙女ブラックだ!」


「きゃああ!」

「うおおっ!」

悲鳴と驚きと、歓声が混ざり合う。

「中西が、学園のヒーローだったのか!」

「本当にスターだったんだ」

生徒の声に、投げキッスで応える中西の後ろ姿を、九鬼はただ…見つめていた。