「そうねえ」

女は、黒谷の周りを回り出した。

「穴を掘り、地下にある神殿であなたを見つけ、封印を解いたが…あなたは、目覚めなかった。まったく!」

「そうだったわね」

「死んだように眠るあなたから、魔力を供給できないとわかった結城哲也は、計画を断念した。それと、同時期に、月の女神がこの世界に戻ってきた」

「その前に、デスパラードの封印が解かれたの。あたし…あの子が苦手なの」

「え」

黒谷は目を見開き、

「ま、まさか…」

女に顔を向けた。

「本当は、目覚めていたのよ。あたしはね。だけど…イオナとデスパラードの争いに関わる気がなかっただけ。それに…」

女は目を閉じ、胸に手を当て、

「あの人が、完全に覚醒していなかったから」

夢見る乙女のような表情になる女に、黒谷は戦慄を覚えた。自然と手が、スーツのポケットに伸びた。

「やめておいた方がいいわよ」

女は、黒谷の手を見た。

「老体には、こたえてよ」

「く!」

黒谷の手には、乙女ケースが握られていた。

「それに、あなたは…一度、納得したはず。あたしの力がほしいと」

「それは、この学園の生徒の為!しいては、人類の為!だけど、貴様は人間のことなど考えていない!」

黒谷は、乙女ケースを突きだした。

「だって…仕方がないじゃない。あの人は、人間ばかり気にしてるんだから!さっきも、人間の為に戦ってたし…嫉妬しちゃうわ」

「さっきの転校生も、貴様が呼んだのか!」

「それは、こっちの台詞よ。あんたが入れた太陽のバンパイアのせいで、やつらが来たのよ。あたしは、静かに…あの人を奪うはずだったのに!」

女が睨むと、黒谷は吹っ飛んだ。

「装着!」

廊下を滑りながら、黒谷が叫んだ。

「無駄なことを」

女は、腕を組んだ。

黒い光が、黒谷を包むと…乙女ブラックへと変身させた。

「お前に学園を好きには、させない!」

黒谷は変身と同時に、床を蹴ると、女に向かって走り出した。