強い剣幕で話す黒谷に、ユウリは臆することなく、平然として言った。

「申し訳ございません。転校生して来たばかりのものでして…」

頭を下げると、理事長に背を向けて、2人はもと来た道を戻って行った。

「今のは?」

理事長のずっと見送っている気配を感じながら、2人は歩き続けた。

「月の防人だ」

ユウリは目を細め、

「地下への階段の場所がわかった」

「ああ」

アイリは頷いた。

「あやつの部屋だ」




遠ざかっていく2人の背中を見つめながら、黒谷の手に汗が滲んでいた。

「今のが…転校生…」

毅然としながらも、黒谷の体は戦慄をおぼえていた。

「あのような者も、入学できるなんて…」

黒谷は、この学校に巣食う闇にぞっとした。


「それは…仕方ないだろ」

黒谷の後ろ…理事長室から、1人の女が姿を見せた。

「この学校の入学条件は、強さのみだからな」

「…」

黒谷は無言で、振り返った。

背中までの黒髪に、猫のような目をした女は、黒谷に向かって微笑んだ。

「…」

何もこたえない黒谷に、女はゆっくりと近付いていく。

「どうかしら?あたしの髪型。あの人に合わせたのだけど」

「ムジカ…」

黒谷は、女を睨んだ。

「あら!こわ〜い」

と言ってから、女はクスツと笑った後、ゆっくりと目を細めた。

「今さら、後悔しても遅いわ。あなたが、あたしを目覚めさせたのだから」


「私は…」

黒谷の全身が、震え出した。

「結城哲也の提案に乗ってしまった。あなたを目覚めさせ…利用するという提案を!」

黒谷の言葉に、女は再び笑った。

「地下で自ら眠りについたあなたを、月の女神は封印された。しかし、古文書に記されたあなたの記述には…あなたには、心がない為に、目覚めさしても…問題はないと書かれていた!だから、あなたは!魔力だけを供給する装置になるはずだった!」