「早く!」

生徒達がいる前では、乙女ソルジャーに変身できない。

慌てて、教室内から廊下側に逃げる生徒達の中に、中西もいた。

「まあ〜いいさ。今日は、断られたが…」

中西は、にやりと笑った。

その手の中には…。



生徒達がいなくなったのを確認すると、九鬼は乙女ケースを突きだそうとした。

しかし、

「何!?」

乙女ケースがなかったのだ。


「フフフ〜ン」

鼻歌を歌いながら、廊下を歩いて避難する中西の手には、乙女ケースがあった。


「これでは、変身できない!」

九鬼は奥歯を噛み締めた。

目の痛みが治まった巨人は、目を真っ赤にしながらも、怒りの咆哮を上げた。

明らかに、激怒していた。

再び鉈を振り上げた。

今度は、受け止めるものがない。

「クソ!」

九鬼は覚悟を決めた。

振り下ろされた瞬間、もう一度懐に飛び込み、目を狙うしかない。

構える九鬼と、振り下ろされるのは同時だった。



しかし、鉈は教室に突き刺さることはなかった。

何かが、鉈を弾き返したのだ。

それは、回転する二つの物体。

「何だ?あれは!」

九鬼は、ジャンプするタイミングを失った。


二つの物体は、鉈を弾いた後、威嚇するように、巨人の周りを飛ぶと、突然弾かれたように、上に跳ねた。

九鬼は窓に近づき、空を見上げた。

太陽に向かって、飛んでいた二つの物体が見えなくなると同時に、黒い影が落下して来た。

「!」

唖然とする九鬼の目の前を、黒い物体が落下していった。

天から落ちてきたのに、黒い物体はまったく砂埃一つ上げずに、地面の上に着地した。

「人間!?」

下を見下ろした九鬼は、目を見開いた。

黒い物体は、学生服を着た人間だった。

その手には、剣を握り締めていた。