廊下を歩いていたのは、中西だった。

授業中の誰もいない空間を、闊歩するのが心地よかった。

しかし、ずっと歩いている訳にもいかなかった。

校内をもう一周してもよかったのだが、中西には用があったのだ。

とある教室の扉を開くと、中西は大声で叫んだ。

「生徒会長九鬼真弓!今から、俺とデートしょうぜ!」

静寂な空間が、一瞬でざわめいた。

「九鬼真弓!」

返事がなかったので、中西がもう一度叫ぶと、教壇の前にいた教師が呆れながら言った。

「お前はC組の中西だな。今は授業中だ!デートに誘うなら、後にしろ!」

「ご冗談を」

中西は肩をすくめ、

「こんな意味のない授業…受ける価値はない」

嘲るように言った。

「何だと!?」

教師の顔色が変わった。

「だって、そうだろ?人間は、生き延びることだけを精一杯考えなければならないのに、授業など意味がない」

「これは、人間が人間社会を形成していく上でだな!」

社会の教師である男は、全否定されたように感じて、感情を露にした。

「無駄だよ」

中西は笑った。


その瞬間、教室内にいた九鬼は突然、影が落ちたことに気付いた。

「な!」

中西の言葉に驚いていた九鬼は、影で視界が暗くなるまで…この存在には気づかなかった。


振り返った窓の向こうで、巨大な一つ目が教室内を覗いていたからだ。

「ま、魔物!」

教室内の生徒達も気付いた。

「だから、言っただろ」

中西はため息をついた。

「授業なんかしてる場合じゃないって」


九鬼達のいる校舎の真横に立っている巨人は、巨大な鉈を振り上げると、刃を水平にして、教室内に振り降ろした。

「ぎゃああ!」

まるで紙切れのように、窓ガラスは割れ、壁を突き破って、鉈は教室内を横凪に切り裂こうとした。

刃が通り過ぎる高さは、人の首筋辺りだった。