「真弓…」

先ほどとは違い、口が止まらない九鬼に、カレンは何も言えなくなった。

「人間のそういう部分を受け止めていなければ、きっと絶望する!」

ここで、九鬼ははっとした。自分の口から出た言葉に、絶句したのだ。

だけど、言葉は止まらなかった。

「彼の光は、強く…純粋過ぎた。そんな彼が、学校に通えば、必ず傷付く!」

「…」

九鬼の言わんとしていることは、カレンにも理解できた。

「だから、彼を学校に置いてはいけない!」

最後の絶叫に、カレンは息を吐くと歩き出した。

九鬼の横を通り過ぎ、出入り口の前で止まった。

そして、ジャンプすると、出入り口の上に飛び乗るり、すぐに降りて来た。

カレンの腕の中には、猫がいた。

「どうやら、迷い込んだらしい」

よしよしとあやして見たが、まだ大人になっていない猫は、カレンの指を噛むと、腕の中から脱出した。

そして、床に着地すると、出入り口に向かって走り出した。

いつのまにか、扉が少し開いていて、猫は屋上から下へ降りていった。

カレンは、噛まれた指から血が滲んでいるのを見つめながら、

「お前は、今の猫を殺すのか?」

九鬼にきいた。

「え?」

「あいつは今、あたしを傷付けた。助けてやったのにだ。恩を感じないと怒るのか?」

カレンは、九鬼に顔を向けた。

「い、今のと、あたしが言っていることは違う!」

九鬼は、叫んだ。

「すべてが、違う訳じゃない」

カレンは、出入り口の前に立った。

扉を見つめ、

「あいつは、多分…赤星浩一じゃない。わかるんだ」

カレンはノブに手をかけた。

「あいつは、人間じゃないよ。純粋な善だ。そして、人間を自分と同じものとは、思っていない。あいつを育てた魔物と、同じだと思っている」

「ま、魔物と同じ!?」

九鬼は目を見開き、

「だとしたら!彼は、人間の味方などあり得ない!」

拳を握り締めた。