九鬼は、思いを口にしょうとした。

だけど、口が動かなかった。

その理由はわかっていた。

他者を頼って、どうするのだ。

自らが限界まで戦って、もう指一本も動かせなくなったら、死ぬ一秒前まで…他者に頼るな。

九鬼の心が、叫んでいた。

お前はもう…月の力に頼っているではないか。


その考えが、九鬼の強さの源であるが…足枷でもあることに、九鬼は気付いていない。

無言で葛藤している九鬼の心を読んだのか…カレンが話し出した。


「浩也は…最初、赤星浩一とアルテミアの子供と思われていたが…それは、違うかもしれない。それが、あたしの師匠ジャスティン・ゲイの見解よ」

「アルテミアの子供?」

思わず眉を寄せた九鬼に、カレンは言葉を続けた。

「それは、あり得ない。だって、そうだとしたら…あそこまでは大きく…いや」

ここまで言って、カレンは顎に手を当て、

「最初は、赤ん坊と言われていたはずだ」

考え込んでしまった。


そんなカレンの様子を見て、九鬼は悟った。

「つまり、詳しくはわからないと…」

軽くため息をつく九鬼を、カレンは軽く睨んだ。

「お前は、一番…何を気にしているんだ?」

「え」

「浩也の正体ではないな。だとしたら…」

カレンは、少し驚いている九鬼の目を見つめた。

「そうよ」

その視線から逃げるように、カレンに背を向けた九鬼は空を見上げ、

「彼が…あたし達の敵になるのか…知りたいの」


「え!」

今度は、カレンが驚いた。

「彼は、あたし達人類の敵になるかもしれない」

「ちょっと待てよ!それは、あり得ないだろ!今朝も、魔神を倒す為に、力を貸してくれただろうが!」

「彼は!!」

九鬼は振り返った。

そして、カレンを睨み付けると、

「邪悪な相手の気を感じただけだ!」

興奮気味にまくし立てた。

「すべての人間は、聖人ではない!邪悪に染まり、闇に堕ちる者もいる!」