授業に身が入らないまま…一限目は終わった。

九鬼はすぐに席を立つと、浩也ではなく…カレンのもとに向かった。 彼女も同じクラスである。

一番奥の席で、次の授業の準備をしていたカレンの前に立った。

「山本さん。少しお話が…」

九鬼の切羽詰まったような顔を見上げた後、カレンは前に座る浩也の背中に目をやると、

「先に、廊下に出てくれ」

席を立ち、浩也のもとに向かった。

九鬼は、そんなカレンの動きを目で追いながら、教室から出た。

カレンも浩也に何か話すと、廊下に向かった。

カレンが廊下に出ると、九鬼は背中を向けて歩き出した。

その後ろを追いかけるでもなく、カレンは普通に歩き出した。

階段を上がり、九鬼が先についた場所は、屋上だった。

程なくして、カレンが姿を見せた。

「話があるって、浩也のことか?」

屋上の金網越しに、復旧した町並みを見つめていた九鬼は、ゆっくりと振り向くと、力強く頷いた。

カレンは、真上近くまで昇った太陽の眩しさに顔をしかめた。

雲一つない晴天は、遮るものがなく、日光が直撃していた。

九鬼は、激しい日射しによりできた…自らの影を見下ろし、

(彼は…この太陽より、眩しいのに、温かかった)

今朝の光を思い出していた。

そして、その温かき光は、希望に思えた。

どんなに力をつけても、敵わない者達がいる世界で、今は人間に属する九鬼の心の底に潜む絶望を打ち消すのには、十分な力を持っていた。

人は、この世界では…いずれ滅びる運命だ。

誰かが言った。

その運命を変える為に、人々は戦い続けている。

九鬼がいた実世界のように、人の欲望や宗教観、人種の違いや、金儲けの為ではない。

人間という種を守る戦いをしていたのだ。

学校という大人の人間に守られている場所にいても、九鬼はその人々の思いを感じていた。

(だからこそ…強くなりたい!)

九鬼はカレンを見つめ、

(そして、真実を知りたい!彼は…人なのか…。いや、人の為に戦ってくれるのか)