「転校生を紹介する」

白髪の教師に促され、一歩前に出た浩也は、教室中の生徒の注目を浴びながら、頭を下げた。

「赤星浩也です。よろしくお願いします」


「赤星君は今まで、お母さんの仕事の関係で、世界中を飛び回っていた為に、きちんとした学校生活をおくったことがないらしい。不慣れなところもあると思うが、みんな!助けてやってほしい」

教師の言葉に、生徒達がはいと返事をした。

「有無」

教師は満足げに頷くと、教室中を見回し、

「席の方だが…」

空いてる席を探した。

「あそこが空いてるな」

一ヶ所だけ、生徒が座っていない席があった。

「結城の席だ。残念だが…あの子はもう…来ないからな」

教師の溜め息に、隣に座る九鬼が空席を見つめた。

クラスメイトだった結城梨絵は、さきの戦いで命を落としていた。

「…」

無言で見つめていると、その席に浩也が座った。

「!」

あまりの速さに、少し驚いてしまった九鬼に、浩也は微笑みながら、頭を下げた。


「九鬼!」

教壇の前に立つ教師の突然の声に、九鬼は慌てて前を向いた。

「赤星君の面倒を見てやってくれ」

「は、はい!」

九鬼は頭を下げた。

「よろしくお願いします」

改めて頭を下げた浩也に、九鬼はまた頭を下げた。

「こ、こちらこそ」

なせか…九鬼は緊張していた。

初対面ではないが、まだ話すのは二回目である。

それに、九鬼の脳裏によみがえる…今朝の出来事が、畏怖にも似た感情を呼び起こしていた。

(こんな…華奢な少年が)

まだ信じられなかった。

自分を遥かに上回る力を持っていることに…。

(彼は…やはり…)


「じゃあ…そういうことで、授業を始めるぞ」

教師の声も、九鬼には聞こえなかった。

すべての意識を、浩也に向けていた。

浩也はもう前を向いているのに。


(彼の知り合いか?それとも…)

伝説の勇者…赤星浩一との関係を疑っていた。