ユウリのこめかみの血管が、ピクッと動いた。

「やめておけよ」

今度は、アイリが注意した。

「この人間…イライラする」

ユウリの殺気を感じたのか…男子生徒は身をよじらせた後、顔を近付けた。

「?」

無表情のはずのユウリが、顔をしかめた。

「やめろよ」

アイリは、ユウリの手を握った。

体温が上昇している。

「殺すか…」

呟くように、ユウリが言ったのと同時に、教壇から声がした。

「中西!さっさと席に着かんか!」

教師の怒声が、ユウリの緊張を解いた。

「これ以上遅刻したら、二年には上がれなくなると、警告したよな」

教師の言葉に、中西と呼ばれた男子生徒はユウリ達から離れると、大袈裟に肩をすくめてみせた。

「それは、困るなあ〜。退学ならはくがつくが…落第は、ロッカーには似合わない」

そう言うと、両手を広げながら、くるりと一回転した。


教師はそんな中西に呆れながら、

「何なら…退学では構わんがな」

ため息混じりに言った。

「それは、絶対の困る!」

広げた手で、教師を指差すと、

「ここには、マイハニーがいるからな!」

もう一回転し、ユウリとアイリに顔を向けた。

改めて、2人をまじまじと見た後、

「あんたらも、相当かわいいが…マイハニーには、かなわない!」

ウィンクをすると半転し、自分の席に向かって、歩き出した。

「何だ…あいつは」

アイリは、中西の背中を睨んだ。

「リン君…すまないな。ああいう馬鹿は、この学校に1人しかいないんだが…我慢してくれ」

教師は、ユウリとアイリに申し訳なさそうに告げた。

ユウリとアイリは、この学園では…リン・ユウリ、リン・アイリという姉妹を名乗っていた。

「か、かわいい…」

先程までと違い…なぜかユウリは顔を赤らめていた。


「まったくだりいなあ〜」

中西は頭をかきながら、席に座った。

「早く休み時間にならねえかな〜」

早くも欠伸をし、

「そしたら、会いに行くのにな…。マイハニー…」

中西は幸せそうの笑い、想い人の名を口にした。



「九鬼真弓に」