「今日から、この学校に学ぶ訳ですが…当校は、他校とは違い、勇者の育成にも力を注いでおります。まあ〜それは、選ばれた特別な生徒だけに、行われる訳ですが…」

教師に引率され、灰色の廊下を歩くのは、赤星浩也だった。

「君は、あのジャスティン・ゲイの紹介でありながら…普通科とはねえ…」

歩きながら、後ろの浩也をちらりと見た教師は頷き、

「まあ…人は、それぞれ…生き方があるでしょうから」

お世辞にも、華奢な浩也の体は、戦いに向いているようには見えなかった。

カードシステム崩壊後、他者のレベルを計れなくなった為、教師は浩也のレベルを見間違えていた。

それに、長きに渡り、カードシステムに頼って来た為に、多くの人は相手の力を感じる能力をなくしていた。


「そうですね」

浩也は、頷いた。

間違っていると、否定もできたが、浩也はする気にもならなかった。

学校という空間にいる自分に、なぜか堪らなく懐かしさを覚えていたからだ。

(どうしてだ?)

その疑問が沸き上がったが、深く追求する気にもなれなかった。

そんな気持ちよりも、今ここにいるという…嬉しさの方が勝っていた。

教師の言い回しも、懐かしかった。

しかし、なぜ…そう感じるのか…明確な答えは持っていなかった。

(お母様…)

魔神達に追い詰められ、無我夢中で逃げ回る日々を過ごしていた浩也には、途中から記憶がなかった。

戦場で行方不明になった母フレアのことは、ずっと気掛かりだが、どうしてか…あまり探す気にはなれなかった。

その理由は、簡単だった。

そばに、フレアの気を感じていたからだ。

(お母様が、無意味に姿を消すとは思えない。何かあるんだ)

浩也は、自らに言い聞かすように頷いた。


「なんの騒ぎだ!」

教室に並ぶ廊下に踏み込んだ瞬間、教師は目を丸くした。

目の前を男子生徒が血走って走り去ったと思ったら、次の瞬間…項垂れて目の前を戻っていったからだ。

「うん?」

浩也は首を捻った。