威圧するような十夜の視線を、九鬼はため息で返すと、

「髪を染めてるだけでなく、刀を校内で抜くなんて…」

「それが、どうした!」

首筋に刃を付けた状態からの一振りは、確実に九鬼の首を跳ねたはずだった。

「な!」

一瞬で、九鬼は刀を挟んで反対側に移動した。

首筋に当たっているのは、逆刃の方だった。

あまりの速さで、廊下を覗いていた生徒達の目では、追うことができなかった。

立ち位置が変わっていることにも、すぐに気づく生徒はいなかった。

「ば、馬鹿な」

絶句する十夜。

九鬼が反対側にいることを驚いているだけではなかった。

渾身の力で振るったはずの刀が、まったく動いていないのだ。

「あり得ない…」

十夜の手から、刀が床に落ちた。

そして、足から崩れ落ちる十夜を…九鬼はもう見ていなかった。

後ろを振り向き、遠ざかっていく二つの背中を見つめていた。

九鬼が刀を処理するコンマ数秒の間に、ユウリとアイリは2人の横を通り過ぎていたのだ。

(速い!!見えなかった)

九鬼は生徒の手前、平然としていたが…手のひらに汗が滲んでいた。

生身であったとはいえ、隣を通ったことにまったく気づかない程の2人の速さに、愕然としていた。

(何者だ?)

九鬼は、2人の背中が角を曲がり見えなくなるまで、見つめ続けた。