「彼女は、乙女シルバーに横恋慕した。その思いは、月の女神と人間の為に、戦いを終わらせたかったシルバーの心を惑わす結界になった」

理事長の話を、九鬼はじっと聞いていたが、なぜか心がざわめいた。

無意識に、ぎゅっと胸を握り締めた。

「ムジカは、乙女シルバーに話を持ちかけたのです。闇の女神を封印する為に、力を貸そうと」


その提案に、シルバーは頷いた。

彼は、ムジカの力を借りて、相討ちになりながらも、デスパラードを乙女ケースに封印したのだ。

深傷を負ったシルバーは、死ぬ間際をイオナのそばで迎えようと、戦いの場から歩き出そうとした時、

その前にムジカが立ちふさがった。

ムジカは、シルバーに告げた。

いずれ…デスパラードは復活することを。

それを阻止する為には、デスパラードの残された肉体に呪いをかけなければならない。

デスパラードの肉体が生まれ変わっても、それを阻止する呪い。

(それは…あなたの魂を、デスパラードの肉体とともに、転生させること)

シルバーは、唖然となった。

ムジカは、命が尽きようとしているシルバーに、こう言った。

(デスパラードは、復活したら…必ずイオナを狙う)


その言葉が、シルバーに決意させた。

呪いを受けることを、承諾したシルバーに…ムジカは、最後の取引を申し出た。


それは…。


「生まれ変わった時、自分の恋人になること…」

理事長は、九鬼を見つめ、

「そうしなければ…呪いをかけないと」

「!」

九鬼の頭に、うっすらと笑う女の顔が浮かんだ。

理事長はため息をつくと、

「勿論…彼は、頷きました。そして、その場で生き絶えた彼の魂は、デスパラードの肉体と融合し…死へと旅立ったのです」


話は終わったようだ。

九鬼も深呼吸をすると、理事長にきいた。

「その話は、誰にきいたのですか?」

理事長は、入り口の扉の写真を見つめ、

「先代の理事長から」