興奮気味に話す理事長を見て、九鬼は冷静であろうと、逆に心を落ち着けた。

ゆっくりと呼吸をした後、九鬼は口を開いた。

「あたしのことは、今は置いておきます。黒谷理事長」

九鬼は少し机に近付き、

「虚無の女神とは、何ですか?」

理事長にきいた。

「!!」

理事長は驚いたように、目を見開き、頭を下げた体勢のまま、顔だけを上げた。

「そ、それは…」

理事長の目が泳ぎ、辺りを伺った後、机の側面に手を伸ばした。

すると、理事長室の壁が輝いた。

「この光は!?」

蛍光灯のような人口的な光ではなく、淡い輝きに、九鬼ははっとした。

「ムーンエナジー!」

「これで…」

理事長は上半身を上げると、姿勢を正した。

「やつには、聞こえないでしょう」

安堵のため息をつく理事長に、九鬼は顔を向けた。

「虚無の女神には」

九鬼は唇を噛み締めた。

月の結界に守られた部屋。

そうでもしなければ、いけない相手とは…一体。

九鬼の戸惑いを感じ、理事長は言葉を続けた。

「虚無の女神とは…月の女神イオナと、闇の女神デスパラードの姉…ムジカ。三姉妹の長女です」

「三人姉妹!?」

九鬼は思わず、声を荒げた。

「そうです」

理事長は頷いた。

「その女神は、どこに!?」

九鬼の言葉に、理事長は指で下を示した。

「この学園の地下です」

「え!」

九鬼は、下を見た。

「いえ…正確には、先日までです。今は、地下にはいません」

理事長は首を横に振り、

「虚無の女神は、デスパラードのように封印された訳ではありません。自ら、眠りについたのです。」

理事長は、九鬼を見据え、

「あなたが、乙女シルバーの力を取り戻す日まで」


「馬鹿な!あり得ない!それに、あたしは乙女シルバーの力を完全に使えない!」

九鬼は乙女ケースを、ぎゅっと握り締めた。

「そうです…」

理事長はため息をつき、九鬼の手にある乙女ケースを見つめ、

「なぜならば…それが、最後の呪いだからです」